エクスプレッシブライティングのやり方と注意点
エクスプレッシブライティングは、心に残る出来事について、そのときの感情や考えを文章にする方法です。研究では1回15〜20分、3〜5回ほど書く形が用いられています。試すなら、今の自分が向き合えそうな出来事を選び、20分を目安に、何が起きてどう感じたかを書いてみましょう。つらくなったら、時間の途中でもやめてかまいません。
手帳に一日の出来事を書くときもあれば、言えなかった一言を何度も思い返すときもあります。このページで扱うのは、気持ちの動いた出来事を選び、時間を区切って書く方法です。特別なアプリは要りません。ノートや紙、パソコンなど、書きやすいものを使えます。
エクスプレッシブライティングと日記の違い
日本語の研究では「筆記開示」と呼ばれています。佐藤德の論文(2012年)は、文章の形を気にせず、体験にまつわる感情を毎日20分ほど、3〜5日間書く手続きを紹介しています。
そのもとになった研究の一つが、PennebakerとBeallによる1986年の研究です。BaikieとWilhelmの総説(2005年)によると、大学生が4日続けて、1日15分、つらかった体験について書きました。その後の研究でも、時間と回数を決めて書く形が使われています。
普段の日記との使い分けは、次のように考えると取り組みやすいでしょう。日記の欄は、日常の記録としての書き方の例です。
| エクスプレッシブライティング | 普段の日記・ジャーナリングの例 | |
|---|---|---|
| 題材 | 気持ちの動いた体験 | 今日あったこと、その日の気分 |
| 時間・量 | 研究では1回15〜20分 | 一行や3行など、書ける分だけ |
| 回数 | 研究では3〜5回、連日行うことが多い | 書きたい日や、決めた曜日に |
| 書く内容 | 出来事と、それにまつわる感情や考え | 一日の記録や、覚えておきたいこと |
一行から日記を始めたい場合は、ジャーナリングのやり方も参考になります。
20分ずつ、4日間書いてみる
カリフォルニア大学バークレー校の実践ガイドは、1日20分、4日連続で書く方法を紹介しています。以下は、その手順に総説の時間の取り方を加えたものです。20分は、つらさを我慢して書き続けるための決まりではありません。
- 今なら扱えそうな出来事を選びます。 たとえば、会議で言いたいことを言えなかった場面。バークレー校のガイドでは、深く傷つく出来事が起きた直後や、思い出すだけで圧倒されるような題材は避けるよう勧めています。
- 一人で落ち着いて書ける場所と時間を確保します。 総説の提案は、書く20分と、終わったあとに落ち着く10分を合わせた30分です。帰宅後など、すぐに次の用事へ移らずに済む時間を選びましょう。
- 紙か、使い慣れた筆記用の道具を用意します。 手帳の空きページやノートでも、パソコンでもかまいません。タイマーを20分に合わせます。
- 出来事と、そのときの感情や考えを書きます。 できる範囲で手を止めず、書き直しや文章の評価は後回しに。誤字や文のつながりは気にしなくて大丈夫です。途中でつらくなったらやめてください。
- 翌日も、向き合えそうなら書きます。 4日間のガイドでは、同じ出来事を続けて扱っても、別の題材を選んでもかまいません。途中でやめた分を無理に埋める必要はありません。
書く内容は、その場のやり取りに限りません。今の仕事や家族との関係、以前の自分、これからどうありたいかへ話がつながっても、そのまま書いてみましょう。研究で使われる教示にも、こうした方向が挙げられています。
4日間を終えたあと、余裕があれば、第三者や相手の立場から同じ出来事を書いてみる方法もバークレー校のガイドにあります。これは任意の手順です。
出来事と気持ちを一緒に書く例
総説では、感情を吐き出すだけで効果を説明できるという説を支持する証拠は乏しいとされています。出来事を言葉でつなぎ直し、意味を考える過程が関わる可能性が挙げられていますが、仕組みはまだはっきりしていません。
書き出しに迷ったら、次の3つを手がかりにしてみましょう。質問に順番どおり答えなくてもかまいません。
- 何があって、どの場面が残っているか。
- そのとき何を感じ、今はどう思っているか。
- その出来事が、自分にとってなぜ気になっているのか。
以下は、職場でのやり取りを題材にした架空の記入例です。実際の誰かの日記ではありません。
会議で、準備していた案を話す前に次の議題へ進んだ。帰りの電車でもその場面を思い出していた。悔しかったし、自分から声をかけられなかったことも気になっている。でも、一番つらかったのは、準備したことを誰にも知ってもらえなかった感じかもしれない。あの場で何と言ってほしかったのか、まだうまく書けない。
出来事、気持ち、自分なりの受け止め方が入っています。最後まで答えが出ていなくても、そのままで大丈夫です。
感情の言葉が見つからないときは、気持ちを表す言葉の一覧から近いものを探してもよいでしょう。
書いた直後に気分が沈むこともある
日本語の論文と2005年の総説は、筆記直後に一時的につらさや否定的な気分が強まることを説明しています。書けばすぐにすっきりするとは限りません。
総説では、負担が大きくなりすぎないよう1回20分までを勧め、いつでも中断できると伝えることも重視しています。20分に届かなくても、そこで終えてかまいません。
書き終わったあとは、次の予定まで10分ほど余白を取りましょう。つらさが強い日は、深く掘り下げる題材を選ばず、今日は書かないと決めてもよいのです。
ジャーナリングの効果はどこまで分かっている?
気持ちを文章にすると、悩みを少し離れたところから眺めたり、読み返して別の選択肢に気づいたりする助けになるかもしれません。厚生労働省の「今の気持ちを書いてみる」でも、こうした書くことの役割が紹介されています。ただし、このページは一般的なセルフケアの案内で、20分×4日の方法の効果を保証するものではありません。
エクスプレッシブライティングについても、研究結果は一様ではありません。2005年の総説は、感情面の結果には一貫しない部分があり、一部の研究では中立的な題材を書いた人より悪い結果も出ていると報告しています。また、この方法が普通の日記より優れているという直接の証拠はないとしています。
「決められた回数を書けば変わる」とは考えず、自分に合うかを確かめる程度にとどめましょう。日記や筆記開示は、必要な医療や心理的な支援の代わりにはなりません。
書いたページは見せなくてもよい
バークレー校のガイドは、自分だけが読むつもりで書くよう勧めています。誰かから文章の評価をもらうための課題ではありません。
厚生労働省の案内も、人に見せないことを前提に、自分の気持ちをありのまま書く方法を紹介しています。手書きが面倒なら、携帯やパソコンでもよいとしています。
書いたページを保管するか、しまっておくか、あとで読み返すかは、自分で決めてかまいません。毎日の記録を短く残したい日は、3行の日記の書き方と例文も使えます。
つらい日が続いているときは
日記だけで抱え込まず、信頼できる人や専門家に話してください。
日本では、いのちの電話(0570-783-556)が午前10時から午後10時まで相談を受け付けています。通話料がかかります。窓口の案内は、厚生労働省の「まもろうよ こころ」で確認できます。
ティーハウスで一行残す
Bium Tea Houseは、日々の気持ちを短く残すための心の日記アプリです。その日の気分に合うティーカップを5つから選び、出来事のステッカーを添えて、一行でも長文でも書けます。次に訪れると、メイが日記を読んで残した短い手紙(AI生成)が日記帳に挟まれています。